第59号 (平成13年) ハンセン病問題の全面解決のため各都道府県に対し各施策の実施を求める要請
受理日:平成13年8月13日
付託委員会:厚生環境委員会
付託日:平成13年9月27日
議決日:平成13年12月21日
議決結果:採択
要請の趣旨
私たちは、ハンセン病問題の全面解決のため、各都道府県に対し以下の各施策の実施を求めます(なお、本文書は全都道府県知事及び議会議長宛の共通文書のため、一部都道府県においては既に実行済の施策も含まれていることをご了承下さい)。
@過去のハンセン病に関する各都道府県の施策の検証と謝罪。
A各都道府県内のメディア、学校教育などを通じた啓発活動等、差別・偏見の除去策。
Bハンセン病患者・元患者に対する、一時帰省事業(いわゆる「里帰り事業」)の実施及び充実、及び、住宅・医療・介護の無料提供、相談窓口の設置等の社会復帰支援策。
Cハンセン病療養所内死没者に対する、当該都道府県出身者のための追悼の塔、納骨堂の設置、追悼式の実施等の名誉・尊厳回復のための施策。
要請の理由
一 国の責任
二〇〇一(平成十三)年五月十一日、熊本地方裁判所において、「らい予防法」違憲国家賠償請求事件について、国の責任を認める原告勝訴判決が言い渡され、国の控訴断念によってこの判決が確定いたしました。そして現在、私たちと国との間で、ハンセン病問題に関する全面解決のための協議が継続されています。
二 都道府県の責任
ところで、ハンセン病問題は、国の責任にとどまらず、都道府県の責任が極めて大きいことにその特色があります。
@ハンセン病問題の本質である終身強制隔離は、各地域における警察の摘発・各都道府県衛生課などによる執拗な入所勧奨・消毒により、患者がその地域で生活することを事実上不可能とし、患者をして家族から離れて療養所に入所せざるを得ない状況を作出することにより完遂しました。戦前及び戦後の一時期、各都道府県はこれを「無らい県運動」と称して競い合うように実行し、患者の「あぶり出し」(多磨全生園名誉園長成田氏の証言)を実施していったのです。本年五月十一日の熊本判決も、この無らい県運動について、「ハンセン病患者が地域社会に脅威をもたらす危険な存在でありことごとく隔離しなければならないという新たな偏見を助長した。このような無らい県運動等のハンセン病政策によって生み出された差別・偏見は、それ以前にあったものとは明らかに性格を異にするもので、ここに、今日まで続くハンセン病患者に対する差別・偏見の原点があるといっても過言ではない。」と厳しく指摘しています。
Aこのように、各都道府県の施策こそが、患者の隔離収容の直接の契機となり、かつ、地域において現在まで残る差別・偏見の元凶となって、今日まで患者・元患者が療養所からなかなか出られない状況を作り上げてきたのです。さらに現在では、親族との断絶や断種・堕胎により身寄りがないことや、園内強制労働の後遺症等による身体障害、高齢などの事情も重なり、患者・元患者の社会復帰は容易成らざる状況にあります。
Bそこで私たちは、患者・元患者らの被害回復のためには、各地方自治体による、自ら故郷から排除した方々を自らの責任において故郷に戻す施策、すなわち、過去の率直な反省の上に立ち、地域の差別・偏見を除去するとともに、様々な制約を除去する等、患者・元患者らが真に「ふるさと」を取り戻せるような諸施策の実施することが不可欠であるとの認職に至り、各都道府県知事及び議会に対し、左記の各施策の実施を要請するものです。
三 各施策について
@過去のハンセン病に関する各都道府県の施策の検証と謝罪
先に述べたように、多くのハンセン病患者・元患者は、各都道府県の徹底した入所勧奨・消毒により、療養所への入所を余儀なくされ、故郷の家族と触れ合うことを二度と許されませんでした。各都道府県がこれらの過去の施策を歴史的視点から検証し、患者・元患者に謝罪することは、患者・元患者の名誉を回復し、地域に根強く残る偏見を打破し、患者・元患者が故郷において社会復帰を実現するため、あるいはまた、以下の各施策を実効あるものにするための不可欠の前提条件であると考えます。
A各都道府県内のメディア、学校教育などを通じた啓発活動等、差別・偏見の除去策。
患者・元患者の社会復帰を阻害する最大の要因は、地域に根強く残る差別・偏見です。各都道府県は、患者・元患者の社会復帰を実現するために、差別・偏見除去の具体的施策を講ずる必要があります。
Bハンセン病患者・元患者に対する、一時帰省事業(いわゆる「里帰り事業」)の実施及び充実、及び、住宅・医療・介護の無料提供、相談窓口の設置等の社会復帰支援策。
ハンセン病問題の根幹である隔離政策を真に終息させるためには、すべての患者・元患者の社会復帰を実現することが理想ですが、現実的には、園の中で余生を過ごされることを希望する方も存在します。しかし、そのような方でも故郷への思いが消えるはずはありません。既に実施されている一時帰省事業(里帰り事業)をぜひ実施いただきたい。また、現に実施されている都道府県においても、単なる当該都道府県訪問にとどまらず、真に入所者の故郷に一時帰すという意味の施策に充実させるべくさまざまな環境整備をされたい。この里帰りの積み重ねは、将来の本格的な社会復帰への助走期間としての側面もあります。
また、社会復帰希望者が実際に社会復帰するためには、差別・偏見の除去だけではなく、親族との断絶や断種・堕胎により身寄りがないことや、園内強制労働の後遺症等による身体障害、高齢などの事情を踏まえ、それでもなお、地域において安心して生活できる受け皿が必要です。具体的には、住宅・医療・介護の無料提供あるいは実費相当額の支給を実現する必要があります。また、社会復帰をスムーズにするため、相談窓口の設置も不可欠です。
Cハンセン病療養所内死没者に対する、当該都道府県出身者のための追悼の塔、納骨堂の設置、追悼式の実施等の名誉・尊厳回復のための施策
現在ハンセン病療養所内には、二万を超える物故者が納骨堂に納骨されています。これらの者は、死してなお故郷に帰ることを許されない状態が続いています。真に必要なことは、直ちに家族の眠る墓に埋葬されることですが、社会的偏見の残る現在、直ちに実施できる状況にはありません。そこで、各都道府県が当該都道府県出身者のための追悼の塔、納骨堂の設置、追悼式の実施等の名誉・尊厳回復のための施策を実施することにより、まずは遺骨を故郷に引き取り、個々の遺族が名乗り出られる環境を整備することが必要であると考えます。
以上のとおり要請いたします。