第16号 (令和06年) 栃木県立特別支援学校に寄宿舎があることで可能性が広がる特別支援教育の充実に関する陳情書
受理日:令和6年9月19日
付託委員会:文教警察委員会
議決日:令和6年10月16日
議決結果:不採択
要 旨
一 陳情の趣旨
1)栃木県教育委員会は、知的特別支援学校寄宿舎の教育的効果を認めているとのことであるが、それならば閉舎ではなく、多機能型でインクルーシブ教育や共生社会への発展が望める寄宿舎の確立を考えてほしい。
2)文部科学省が掲げる通学保障を踏まえ、栃木県特別支援学校の通学保障の検証が必要である。そして、障害者差別解消法における合理的配慮の観点からすれば、寄宿舎は通学困難な児童生徒にとっての合理的配慮であり不可欠な制度である。
二 陳情の理由
1)栃木県教育委員会(以下、県教委)をはじめ、栃木県県議会(以下、県議会)や特別支援教育の在り方に関する検討会(以下、検討会)等が、今回閉舎となる那須・栃木特別支援学校寄宿舎(以下、寄宿舎)の教育的効果や、卒業後の生活自立に対し評価をしている。もちろん寄宿舎教育だけが特化した評価ではなく、学校教育との連携による相乗効果からの成長やその後の自立に繋がっていくとの評価である。寄宿舎の存続を求める団体や県民も同様の観点から寄宿舎の存続の意義を申し上げているところである。しかし、県教委は、検討会の議論で出た結果「発展的解消が望ましい」の報告を受け、令和6年度末で両校寄宿舎の閉舎を決定した。「発展的解消」の理由として、県教委の意向は寄宿舎指導員を各知的障害特別支援学校へ配置させ、教員と共に授業における生活指導や生活訓練施設を活用した宿泊学習に係る指導を行うことで、生活に関する指導・充実を図る(寄宿舎指導員の知見の活用)とあるが、具体的取組みやスケジュールは示されていない。また、教員と共に指導を行うとあるが、那須・栃木特別支援学校の2校に関しては、寄宿舎とともに教育が行われてきており、教員は、寄宿舎のある学校での教育の経験はもちろん、寄宿舎がない学校での教育の経験がある方が多く居るなかで、なぜ、県教委が評価している寄宿舎の教育的効果が全ての特別支援学校教育に拡充がされてきていないのか検証が必要と考える。併せて、寄宿舎指導員の知見の活用とあるが、寄宿舎指導員の知見とは具体的に何を示すのかが不透明のままでは、活用につながることは無いと考えられます。寄宿舎指導員の組織の知見とするのか、指導員個人の知見とするのかによって活用の仕方や取組みは変わると考えますので具体的な評価を示すよう検証してほしい。
さて、県教委は寄宿舎を閉舎した後、指導員の各校配置と分散することで寄宿舎の教育的効果を継承するとあるが、寄宿舎閉舎によって機能を低下させ公平な教育を行おうとすることは、特別支援教育の個に寄り添った教育を追求する理由にならない。むしろ、寄宿舎生活を拡充することによって教育の幅を広げられ、個に寄り添う教育が充実すると考える。
事実、那須・栃木特別支援学校にある寄宿舎は老朽化しており、施設として安全とは言い切れないし、生活様式も現代に沿った設計にはなってはおらず、現代の生活様式とかけ離れているところが少くない。また、県教委が問題としている2校にしか設置をしていない寄宿舎が公平では無いことは、学校教育法第78条に鑑みて全ての特別支援学校に寄宿舎を設置することが望ましい。インクルーシブ教育や共生社会の観点からしても寄宿舎が分離ではなく、特別支援学校が分離教育であると考えるべきである。インクルーシブ教育への過程として、新たにスクールバスによる通学保障を鑑みて複数校が利用可能な地域に寄宿舎機能を有した生活学習施設、公立小中学校並びに県立高校の児童生徒も利用できる宿泊施設、教員養成必須項目にある特別支援教育の実習施設などを併用した多機能型寄宿舎が考えられます。さらに災害時には、障がいを持つ方々の避難施設としても有効活用ができる可能性もある。生活訓練施設については、過去に寄宿舎を大幅に閉舎をしてきた東京都においては、宿泊訓練棟等で対応できるとしたが、実際の活用は進まず、廃止されるに至っている。栃木県においても、すでに校内施設を活用せず、公共施設やホテルを活用しての宿泊学習を実施している学校もある。今後の利用度を考え莫大な予算を投じての施設設置とするなら、長期間活用可能で多機能型、かつ、万が一には避難施設としても運用が可能な寄宿舎も対案として検討することを要望します。最終的には、県教委が掲げた方針にある【共生社会の実現に向けた視点】がより達成できる可能性を期待できると考えました。
2) 文部科学省の見解は一人でも通学困難の児童生徒がいれば寄宿舎は必要としていますが、県教委は、県内に知的特別支援学校の設置が進んだこと、交通網の発達等により通学保障としての役割を概ね終えたを理由とし、寄宿舎の閉舎を示しているが、那須特別支援学校においては、通学困難が解消されるような学区の見直しはされておらず、また地域によっては路線バスの廃止など交通事情等は衰退している。さらに福祉事業等も市街地には点在するが、郊外には利用施設もなく保護者の送迎が必要な状況です。
県内すべての特別支援学校において自宅から学校まで自主通学が可能な児童生徒は少なく、スクールバスに乗車するにも、乗車が継続的に対応できる児童生徒のみの利用となっており、知的障害特別支援学校の肢体不自由の児童生徒に至っては乗車バスに配慮がなされていない。また、県北域の公立小中学校は学校統廃合が進む中、スクールバスの登下校が主となっているが、自宅からバス停までの距離は子どもが歩ける範囲500m程度までとなっている。一方、那須特別支援学校に関しては、遠距離と認定される基準が自宅からスクールバス乗車バス停まで10km以上とある。バスの乗車時間も規定があり概ね60分以内となっているが、最長のスクールバス乗車バス停から自宅までの距離が10km以上の家庭も存在する。スクールバスを配車しても乗車時間内での通学保障が困難なケースもある。障害者差別解消法における合理的配慮の観点からも、多様な事情や学区域と児童生徒の居住地を勘案した上で通学保障である寄宿舎は、まさに合理的配慮であり、学習保障のための不可欠な制度であると考えます。