第33号 (平成29年) 法曹人口政策の早期見直し及び法曹養成制度の抜本的な見直しを求める意見書に関する陳情
受理日:平成29年9月19日
付託委員会:県政経営委員会
付託日:平成29年9月27日
議決結果:審査未了
要 旨
1 陳情の趣旨
別紙「法曹人口政策の早期見直し及び法曹養成制度の抜本的な見直しを求める意見書」(案)のとおり、法曹人口政策及び法曹養成制度に関する意見書を採択し、同意見書を国に提出するよう陳情いたします。
2 陳情の理由
平成14年3月に閣議決定された「司法制度改革推進計画」による司法試験合格者数の増員と司法修習生への修習費用の給費の廃止(貸与制への変更)は、弁護士数のみを不均衡に増加させるとともに、就職難によるOJTの機会減少の弊害を生じさせています。また、新規登録時点での多額の負債を生じさせ、弁護士数増と法的需要の減少による競争激化と相まって、経済的苦境に陥るリスクが非常に高まっています。これらの弊害は、現時点でも依然として生じているものです。
そのため、有為の法曹希望者が法曹への道を断念し、ひいては国民に対する必要な法的サービスを提供しえない事態を招来するものとなっています。この問題は、紛争の適正な解決による自由かつ公正な社会の実現という司法の危機をもたらすものであり、到底看過できないものと考えます。
これまで全国複数の議会で改善への意見書を採択していただいておりますが、貴議会におきましても、同種意見書の採択をされるよう意見書を添付した上で陳情するものです。
(別紙意見書案)
法曹人口政策の早期見直し及び法曹養成制度の抜本的な見直しを求める意見書政府は、平成14年3月、社会の複雑・多様化、国際化等の進展により今後法的需要が量的に増大し、質的にも多様化・高度化していくことを前提に、能力的・人格的に優れた多数の法曹の養成及び確保並びに司法制度を支える体制の充実強化を図ることを目的とし、当時年間1000人程度であった司法試験の合格者数を平成22年ころには年間3000人程度とすること、法曹養成に特化した教育を行う法科大学院制度を新設し、原則として法科大学院の修了を司法試験の受験資格とすることなどを内容とする「司法制度改革推進計画」(以下、「推進計画」という。)を閣議決定した。
しかし、裁判所の全新受件数は平成15年をピークに右肩下がりに減少を続け、平成27年にはピーク時の6割程度にまで減少し、法曹の活動領域の拡充も遅々として進まず、推進計画において増員を図るとされた裁判官及び検察官はほとんど増員されていないなど、法曹人口拡大の前提である社会の法的需要の増大は生じていない。他方、司法試験合格者数は平成19年から平成25年までは年間2000人超、その後多少減少したものの、平成27年までは1800人超とされ、ほぼ、推進計画で定められたとおりの数字となっている。その司法試験合格者の大部分が弁護士となることを選択しており、弁護士数は上記閣議決定がなされた平成14年当時の1万8838人から3万8898人(平成29年9月1日現在)と二倍以上に増加した。
栃木県内の弁護士数は、平成14年当時の96人から218人(平成29年8月1日時点)と、同じ期間の全国の弁護士増加率を上回る割合で大きく増加した。また、平成14年4月1日当時の栃木県の人口は200万4695人、平成29年8月1日時点の栃木県人口は196万2304人であるところ、栃木県内の弁護士一人当たりの人口も、平成14年当時の2万882人に一人から、平成29年8月1日時点では9001人となり、県民人口比の点からも弁護士が大幅に増加するに至った。その結果、栃木県内では宇都宮地方裁判所各支部はもとより、日光市や下野市など裁判所が存在しない地域にも弁護士が事務所を構えるようになり、事件数減少とも相まって、平成14年当時存在していた栃木県内における弁護士過疎問題は、すでに解消されたものと考えられる。
また、司法試験合格者大幅増の結果として、司法修習生の就職難が生じ、司法試験に合格し、司法修習を修了しても、法曹として就職・就業できない者がいわゆる一括登録時(12月)で400人を超え、その1か月後でも200人を超えているという異常事態が平成23年から平成27年まで続いてきた。この就職難の影響で、実務経験による技能習得の機会(オン・ザ・ジョブトレーニング)が減少するという弊害も生じている。
さらに、平成23年からは司法修習生の修習資金が給費制から貸与制に変更され、法科大学院から司法試験合格までの学費、生活費の負担に加え、司法修習資金の借入れにより、法曹となった時点で多額の負債を抱える者が続出している(高まる批判を考慮して平成29年度から修習給付金制度が設けられたが、従来の「給費制」と比べると不十分であることに加え、貸与制世代に対する経済的手当ては全くなされていない。)。そのようにして、大きな経済的負担を負って司法修習を修了したとしても、先に述べたとおり法曹として職を得られるとは限らず、また、弁護士として就職あるいは開業したとしても、その所得は弁護士数の激増と法的需要の減少による競争激化により大きく減少しており、結果として経済的苦境に陥るリスクが非常に高まっている。
このような惨状が報道等によって広く社会に認知されることになった結果、法曹志望者は年々減り続け、ピーク時の平成16年度には7万2800人を数えた法科大学院の入学志願者数は、今年度はその約11パーセントである8159人にまで激減している。法曹の魅力の低下は、求めていたはずの多様で有為な人材を法曹から遠ざけ、さらには優れた法的知識と法的思考を有する者を選抜するという司法試験を機能不全に陥らせている。
こうした状況を受け、政府が設置した法曹養成制度関係閣僚会議は、平成25年7月に司法試験合格者数を年間3000人とする目標は非現実的として事実上撤回し、更に政府が設置した法曹養成制度改革推進会議は、平成27年6月に司法試験合格者数に関して「1500人程度」との具体的数字を示すに至り、その後の司法試験合格者数は、平成26年は1810人、平成27年は1850人、平成28年は1583人、平成29年は1543人と一定程度減少してはいる。しかし、仮に、法曹養成制度改革推進会議が示した約1500人の合格者数を維持するとすれば、弁護士数は1、2年のうちに4万人を超え、平成55年には推計6万人を超えるとの試算もあり、さらなる合格者数の減員は必須の情勢である。現に、本年度の合格者数は昨年度より40名減少しているものの、合格率は25.8%と昨年度の22.9%を上回っており、国は、1500名という目標達成のため、本年度は合格率を上げて(合格点を下げて)まで1543人を合格させているが、昨年度までであれば合格レベルに達していない受験者を合格させているものであり、このような国の態度が続くとすれば、将来の法曹の質の低下が強く懸念される。
また、新しい法曹養成制度の中核とされた法科大学院制度も崩壊の危機に瀕している。入学志願者数の激減についてはすでに述べたところであるが、それに伴い、法科大学院の定員充足率もピーク時の平成16年度には1.03であったものが、今年度は0.66まで低下し、定員を割り込む法科大学院が続出している。最も多い時で74校存在した法科大学院は、その多くが廃止や入学者の募集停止に追い込まれ、本年、来年度の入学者を募集するのは39校に止まり、何らの対策も講じなければ、今後も残る法科大学院の多くが募集停止や廃止となることは容易に想像できる。このように、法科大学院制度はもはや法曹志望者に経済的・時間的負担を課すだけの単なる参入障壁となってしまっているのである。現に、本県に唯一存在した白鴎大学大学院法務研究科(法科大学院)も、平成27年度から入学者の募集を停止し、平成29年3月には廃止となっており、今後本県の県民が司法試験を受験するためには、司法試験予備試験に合格するか、そうでなければ他の都道府県の法科大学院に通わざるを得ないのである。栃木県内のより多くの有為な若者が法曹を目指すためには、法科大学院と司法試験受験資格の関係についての抜本的な見直しが必要である。
法曹は我が国の司法を支える人的基盤・担い手であり、その職務は国民の権利義務に直接関わるものである。その中でも弁護士は国民にとって最も身近な存在であり、国民の基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命としている。しかしながら、法曹の、特に弁護士の過剰供給は弁護士間の過当競争を招き、目先の利潤を追求する傾向を強め、人権擁護を疎かにするばかりか、無用な訴訟への誘導や高額な費用請求をし、さらには横領などの不祥事を起こすなどして、護るべき国民の権利利益を弁護士が害する事例も報道されるに至っている。このまま需要と供給のバランスが失われた状態が続けば、事態はより深刻化し、最終的には多数の国民の権利利益が害されるが不利益を被ることになりかねない。
このような現状の改善のためには法曹人口政策の見直しは当然として、法曹養成制度そのものの抜本的な見直しが必要である。
よって、国に対し、早急に現実の法的需要に見合った法曹人口となるよう平成29年度以降更に司法試験合格者数を大幅に減員し、併せて法曹養成制度全体の抜本的見直しを行うよう強く要望する。
以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。