第7号 (平成27年) 安全保障法制法案に関する意見書採択を求める陳情書
受理日:平成27年6月3日
付託委員会:県政経営委員会
付託日:平成27年6月17日
議決日:平成27年6月26日
議決結果:不採択
要 旨
安倍晋三政権は、5月15日に「安全保障法制法案」を国会に提出し、今夏までに成立させることを目論んでおります。しかし、この法案は、憲法9条と専守防衛政策の下、戦後70年に亘って戦場で一人の戦死者も出さずに来た我が国のあり方を大きく変えるものであり、国内外にわたって大きな論議が巻き起こっております。
例えば、最近でも以下のような動きがあります。
安保法制法案を決めた本年5月12日、自民党総務会で唯一人反対して退席した村上誠一郎衆議院議員は、次のように述べております。
「憲法改正をせずに集団的自衛権を行使することについて、疑念が晴れない。」
「(執行部から)集団的自衛権行使の具体的なケースの説明が全くなかった。これで国民の皆さんがわかるのか。」
「憲法を有名無実化する。戦前のドイツ議会が、全権委任法を通して、民主的なワイマール憲法をつぶしたのと同じことになる。なぜ、この法案が必要なのか、軍部の暴走を止めるためにどうするのか、質問すればするほど疑問がわいてくる。明確な答えがない。」
「法整備をするのは、このままだとアメリカに見捨てられるからというのが理由だが、結局、中国や韓国を刺激するだけになるのではないか。」
また、中谷元防衛大臣は同日の国会答弁(参議院外交防衛委員会)で「これまでは、『相手から日本が武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使するという、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略』として『専守防衛』を定義してきたが、今後は、『日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合』も『専守防衛』に含む。」と政府見解を変更する発言をしました。
イラク戦争開始の翌年にイラクで「イスラム国(IS)」の前身が生まれたことからみても武力によって平和を実現することが決してできないことは歴史の教訓です。この法案はこれに背くものであり、かつ、憲法9条を持つ我が国が、一切の紛争を平和的手段で解決する範を世界に示してこれをリードしていく崇高な役割を担っていることを忘却するものであって、「日本を戦争に巻き込む、憲法9条に反する違憲無効のもの」です。
しかし、私たちは、貴議会の議員各位が、法案の趣旨への賛否については見解を異にするとしても、少なくとも今回の提出法案とその今夏までの成立目論見については、「(別紙1)意見書採択を求める理由」掲記の理由から、決して許されるものではないということでは一致できるものと考えており、その観点から、貴議会が政府並びに国会に対する、次の2点を求める旨の意見書を採択することを求めるものです。(別紙2「意見書案」)
1 法案の撤回・廃案、少なくとも今国会での採択をしないこと
2 そのうえで、広く国民的議論を尽くすこと
意見書採択を求める理由
1 日本が武力行使する機会が増えるのか減るのか定かでない
安倍首相は、今月14日の記者会見において「(今回の法整備によって)抑止力が更に高まり、日本が攻撃を受ける可能性は一層なくなり、紛争に巻き込まれるリスクも減少する。」と説明していますが、日本の強力な同盟国とされる米国のカーター国防長官は、今年4月8日東京における中谷防衛大臣との共同記者会見において、「米軍と自衛隊が切れ目なく協力する機会が増える。」「世界中での対応が可能になる。」と述べています。いずれが正しいのでしょうか。
2 憲法改正に匹敵する改変を法律制定で行なってよいのか
上記村上誠一郎議員発言・中谷防衛大臣国会答弁にもあるとおり、戦後日本の国是とされてきた「憲法9条に基づく専守防衛」を大きく改変するものであるがゆえに、本来、憲法の明文改訂によってのみなされるべきことではないでしょうか。
3 国民主権主義からみて、根強く反対している国民世論を無視してよいのか
共同通信の最近の世論調査によると、集団的自衛権行使容認については常に反対が賛成を大きく上まわっており、本年3月の調査でも、反対45%、賛成41%。武力を伴う他国軍を従来の「戦闘地域」まで行って後方支援をすることには、同じ調査で反対が70%であり、賛成22%の3倍以上となっている。今国会で成立を図るとの政府方針には、同じく、反対50%、賛成38%など、法案や今国会での成立に対し国民多数が根強く反対していることは明らかです。これを無視すべきではありません。
4 42年間一貫していた憲法解釈を法律で変更することが許されるのか
政府は、集団的自衛権の行使について、1972年以降42年間に亘り一貫して、憲法違反と公言してきました。この確固とした公権的憲法解釈を今回のように法律によって変えてしまうことは、憲法が為政者への命令であるとする立憲主義を否定するものです。
5 国是である平和主義に反しないものか、広く深い国民的論議が必要
憲法9条改正の是非については諸論あるものの、我が国が今後とも平和主義を根幹としていくべきという点については、安倍首相発言も含め異論が見あたりません。となれば、今回の法案が当然になされるべき自衛隊員の人命への深い配慮の存否などその国是に合致するものなのか否かについて、広く深い国民的論議が不可欠と言わなければならず、今夏までに衆参両院で可決成立させることを前提としていて、これは到底不可能であります。
6 対米公約を国会審議に優先する安倍首相の姿勢が問われている
安倍首相は、本年4月のうちに米国との間で、法案を先取りした新ガイドラインを取り決め、しかも今夏までの法案成立まで約束するなど、対米追従・国会軽視の姿勢最たるものがあります。このような姿勢を前提としていては、充実した国会審議と国民的論議は到底不可能であります。
7 160頁を超える法案を超高速で審議可決させようとしている
政府が国会に提出した10本の既存法律を一括改正する「平和安全法制整備法案」と「国際平和支援法案」の二つの法案は、内容も重大であり形の上でも法文対照表含め全文160頁を超える膨大なものであるにも拘わらず、これを新たに設置する一つの特別委員会に一括して付託し連日審議、一括採択を重ねて8月上旬までに成立を図るものです。
これは、国民に問題点が明らかになって反対世論が高まることを恐れ、そうはならないうちに強行突破を狙うものに他なりません。この点でも、国会軽視・国民軽視大なるものがあります。
8 致命的欠陥−相手側からの反撃があり得ることを直視していない
我が国に対する武力行使がない段階で、自衛隊が集団的自衛権によって武力行使することにより相手国が我が国に対して反撃する場合、若しくは後方支援によって武力紛争に巻き込まれることにより相手国または相手組織から我が国に対して反撃またはテロ攻撃がなされた場合に、どのように対処するかとの検討が殆どなされていません。
しかし、相手国からの反撃対象として、米軍及び自衛隊基地、電力・通信・テレビ局・輸送などインフラ関係、政府・自治体関係施設などが狙われ、時には誤爆として、多くの国民が来集する施設建物まで「反撃」をくらう危険があり、さらに原発、船舶、航空機を含め無差別に大規模テロ攻撃を受ける危険も大きくなります。海外では、日本企業・日本人・日本船舶航空機・在外基地を含む政府関連施設が狙われる危険が一層大きくなります。このようなリスクを冒してまで今回の法整備を行わなければならないものか否か、慎重の上に慎重を重ねて十分論議しなければなりません。今夏までには到底不可能な課題です。
9 自衛隊出動の可否がベールに包まれる可能性が高い
今回の法案には、「存立危機事態」「重要影響事態」「国際平和共同対処事態」など、国民にとっては容易に理解しがたい「事態」が乱立しています。加えて、遠い海外で起こっている「緊急事態」の実態を正確に把握することがそもそも困難であること、政府に集まる情報が「特定秘密」として国会や国民の目から隠される可能性があることなどにより、出動の可否を国民が正確に判断できないまま自衛隊が出動していく可能性が少なくありません。
加えて、日本軍の手による鉄道爆破を「中国軍の仕業」であると国民を14年間欺し続けた「満州事変」から、「大量破壊兵器がない」との情報を隠してまで開戦したイラク戦争まで、古今の戦争は、嘘、隠蔽、謀略で凝り固まっていると言って過言ではありません。もし、間違えて武力行使した場合に一体だれが責任を取れるのでしょうか。
10 尖閣問題はこれまでの専守防衛の問題
尖閣諸島に対する中国の態度から、我が国の防衛力を高めなければとの思いを持つ国民は少なくないが、日本の領土を防衛することは、従来からの専守防衛の範囲のことであって、今回の法整備とは直接関係がありません。集団的自衛権を認めると、南シナ海の紛争にまで自衛隊がかり出される可能性が高くなり、むしろ紛争の拡大を生じさせる恐れがあります。
「安全保障関連法案」の撤回・廃案を求める意見書
政府が今国会に提出した「安全保障関連法案」については、戦後長きに亘って専守防衛に徹するとした我が国のあり方を大きく変えるものであってすべての国民にとって極めて重要な法案であるにも拘わらず、
1 あまりに複雑難解であること、
2 実質11本に及ぶ大部の法案を一括して3ケ月以内に一挙に成立させようとするものであること、
3 相手側からの武力反撃・テロ攻撃のリスクに十分配慮していないこと、
4 自衛隊出動の要件が具備されているか否かを国民・国会が判断することが困難であること、
5 従って国民が間違った戦争に引きずられていく危険があること、
6 憲法の立憲主義・国民主権主義・平和主義に合致しているものか疑わしいところがあること、
などの理由から、これを内閣において撤回し、若しくは国会において廃案にし、少なくとも今国会で成立させることなく、国民的論議を十分尽くすことを強く求める。
内閣総理大臣 殿
衆議院議長 殿
参議院議長 殿