第4号 (平成11年) 「組織犯罪対策関連三法案の廃案を求める意見書」の提出を求める陳情
受理日:平成11年6月4日
付託委員会:文教警察委員会
付託日:平成11年6月23日
議決日:平成11年7月1日
議決結果:不採択
(陳情の趣旨)
現在国会で審議中の「組織犯罪関連三法案」については、日本弁護士連合会や日本ペンクラブ、札幌市や鹿児島市など六〇を超える自治体が、「反対」の立場を明らかにしています。
捜査当局による電話やFAX、電子メールの傍受(盗聴)を合法化しようとする「通信傍受法案」、組織犯罪のマネーロンダリング(資金洗浄)処罰を新設するなどの「組織的犯罪処罰・犯罪収益規制法案」、証人保護を名目とした「刑事訴訟法の一部改正案」の三つの法律からなる、これら「組織犯罪関連三法案」は、憲法第二十一条「通信の秘密」、憲法第三十七条「刑事被告人の諸権利」などを侵す憲法違反の法案であるという懸念がぬぐえません。
まず、「通信傍受法案」は、犯罪の起こってもいない段階から「犯罪を犯す恐れのある人物」を特定し、傍受を認める「事前盗聴」が行えるとしており、「銃器」「麻薬」「密航」「組織的殺人」の四つの犯罪に傍受は限定されたとはいえ、その意義が生かされるとは到底言えません。「犯罪が起こった」という客観的な物差しのないうちから傍受が始まるとするなら、警察の作為によっていくらでも「疑いのある人物」をあぶり出し、その周辺を自由に傍受することが可能だからです。しかも上記四つの犯罪捜査中の傍受時にたまたま傍受した他犯罪(刑罰が禁固一年以上の犯罪に限るとしているが、ほとんどの犯罪がこれにあてはまると言ってよい。)に関わる情報については、裁判所の令状もいらない「別件盗聴」として合法化されているのです。これでは、四つの犯罪捜査を手がかりに、他犯罪の捜査にも次々と傍受の手が伸びてしまうことを懸念せざるを得ません。
また、傍受の際は常時通信事業者か地方公務員の立ち会いが必要だとしていますが、立会人に傍受の切断権はなく、一旦傍受を行える体制が整えば、現場の警察官の裁量ひとつで、事実上いくらでも傍受は可能になってしまうでしょう。今年三月来日した米国自由人権協会のAさんは、すでに「盗聴」を認めている米国の実情を生々しく報告し、盗聴という刑事捜査がいかに人権侵害をもたらしているかについて明らかにしました。盗聴という刑事捜査の特徴として、「傍受は犯罪に関係のあることに限定できず、米国でも八三%が犯罪とは無関係の通信であったこと」「盗聴件数は十年間で倍増するも、捜査効率の低下とともに市民のプライバシー侵害が拡大している」など、危険な問題点を指摘しています。
また、「組織的犯罪処罰・犯罪収益規制法案」においても重大な人権侵害が懸念されます。とりわけ、「犯罪収益」については、「組織犯罪」に認定された被疑者の弁護士が、起訴前に弁護活動を行い報酬をもらえば、その報酬は没収され、組織犯罪に加担したとして弁護士までもが逮捕される危険性が指摘されています。さらに、捜査当局は金融機関に対し、犯罪収益を受け取ったという疑いがあるすべての顧客に関する情報の届出を義務付けています。「疑いがある」というだけで、捜査当局は金融機関からの情報をつかむことが可能となり、ここでもプライバシーの侵害が大いに懸念されます。
すなわち、組織犯罪対策関連三法案が成立するならば、警察には、盗聴で得た情報や金融機関から得た情報など、市民のプライバシーに直結する膨大な情報が一挙に集まる構造が出来上がってしまいます。このことは警察権力の肥大化をもたらし、憲法で保障された基本的人権の尊重や民主主義の根幹が揺らいでしまうことを意味します。
つきましては、貴議会におきまして、「組織犯罪対策関連三法案の廃棄を求める意見書」を採択していただき、内閣総理大臣及び、法務大臣に提出してくださいますようお願い申し上げます。
(陳情事項)
「組織犯罪対策関連三法案の廃棄を求める意見書」を採択し、内閣総理大臣・法務大臣に送付すること。